留学体験記
01
"一年間、余暇の過ごし方に困った記憶はありません"
専門:美術史
N.K.
2019年進学
  私は学部3年生の秋から、イギリスのロンドン大学ユニバーシティカレッジ(UCL)に1年間交換留学しました。
  地理的な隔たりは言うまでもなく、気候も街の雰囲気もイタリア地中海より一段とクールなロンドン。しかし、流石はかつての大英帝国の都と言うべきか、ヨーロッパの至る所から一流の文物が集まっており、イタリア地中海研究にももってこいの留学先です。
  当時、私はイタリア・ルネサンス美術史をテーマに卒論を執筆しようとしていましたが、それに関連するものに限っても、ナショナル・ギャラリーにはレオナルドやティツィアーノといった巨匠の名作が並び、ハンプトン・コートにはマンテーニャの壁画連作があり…と、見るべきものに事欠きませんでした。もちろん、単純に作品の総量で言えば本場に及ばないことは確かですが、広範な地域や時代を代表する至宝が一堂に会し、体系的に整理されているという点をとれば、この上なく恵まれた環境だったと思います。
  イギリスの大学と聞くと、多くの人がオックスフォードのような学寮制を思い浮かべるかもしれません。しかし、大都市ロンドンでは事情が異なります。各学科の建物や図書館、および学生寮は市街に溶け込むように分散しており、 学生生活をその内部で済ませ得る「キャンパス」はありません。その結果、大学と都市の間の垣根が低く、授業でもフィールドワークが重視され、最新の社会動向を反映したトピックが好んで扱われることとなります。
  例えば私が参加した美術史学の授業では、毎週のように市内の美術館やギャラリーや宮殿(!)等に足を運び、実際の作品を前にして学生や先生と意見を交わしました。興味本位で受けた文化人類学の授業では、当時大流行していたCOVID-19を題材に、国ごとの対応の違いや、感染症から派生した人種差別の問題について、様々な国籍の学生と議論をしました。授業外では、「Japan Society」と呼ばれるサークルに所属し、現地の学生に英語を用いて日本語を教える活動に参加したことも良い経験になりました。
  ロンドン大学の魅力とは何かと考えると、もちろん理論的な研究のレベルの高さもありますが、その点では東大も負けていません。この大学で留学する醍醐味はむしろ、机を離れて現物の作品や史料ととことん対話する練習を重ねられることや、インターナショナルな環境(大学全体では外国籍の学生がなんと半数以上)の中で、日本で培った価値観や知見を相対化できるようになることにあったと感じています。
  「ロンドンに飽きた者は人生に飽きた者だ」という金言があります。若輩の私にはこれほど壮大なことを言い切る自信はありませんが、少なくとも一年間ロンドンに留学して、余暇の過ごし方に困った記憶は全くありません。美術館や博物館は数えきれないほど存在し、基本的に入場無料なので行き放題。ウエストエンド・ミュージカル等の舞台も、仮に毎晩通ってもコンプリートできないのではないかと思われるほどのバラエティがあり、割引を駆使すれば比較的安く観ることができます。
  私は帰国前の数ヶ月間、シェイクスピア劇場グローブ座でボランティアをしており、『から騒ぎ』や『ジュリアス・シーザー』の上演を手伝うという非常に心踊る体験をしました。長めの休暇には、何度かヨーロッパ旅行も企画しました。海ひとつ隔てている分大変に思われるかもしれませんが、実際にはヨーロッパ内では大量のLCC(格安航空会社)が就航しており、早めに予約すれば大抵一万円未満で往復の航空券を入手できます(その裏には高頻度の遅延や欠航という代償がありますが、慣れとは恐ろしいもの。留学を終える頃には、いかなるトラブルにも不動如山の態度で対処できるようになっていました)。
  ここまで留学生活の魅力的な部分ばかり書き連ねてきましたが、もちろん留学には多くの困難が伴いました。特に、言語の壁や、日本での功績が通用しない感覚が耐え難く、塞ぎ込んでしまうこともありました。しかし、それでも何とか人間関係を築き課題をこなしていった経験は、新たな自信に繋がった気がします。何より、現地での学びや調査を基に卒業論文を完成させたときの感動はひとしおでした。皆さんもイタリア地中海研究コースに進学した暁には、ぜひ留学制度を活用して、イタリア地中海の豊かな文化世界に身を浸しに行ってはいかがでしょうか。
02
"イタリア現地の風土を見分することができたのが、その後の学部での学びに生きています"
専門:イタリア文学
K.O.
2022年進学
  イタリア地中海コース4年のK. O.です。2022年9月の一ヶ月間だけではありますが、ペルージャ外国人大学に短期留学していました(留学当時は2年生でした)。
  私はもともと文科二類中国語選択だったのですが、2年生のSセメスターからイタリア語の授業をポロポロと履修し始めました。
  その中で、当時の先生にお薦めされたことをきっかけにこの短期留学プログラムに応募しました。応募から渡航までの期間もそれほど長くなく、まだコロナの影が残り出入国など面倒な部分もある時期でしたが、先生方のサポートもあって無事に一月のペルージャ生活を終えました。私が通ったのは外国人大学だったのでクラスメイト達はイタリア人ではなく、ヨーロッパからアメリカ、アフリカまで様々な国の様々な年代の方々がいました。大学の中だけでなくペルージャという都市全体が国際色豊かで、私をホームステイに迎え入れてくれたご夫婦の奥さんはインドネシア、向かいの食料品店のご主人はイラン出身の方でした。
  コースの初めに語学レベルを測る簡単なテストがあります。私はA2.3という下の上くらいのクラスに振り分けられ、平日の朝7時からお昼時まで授業を受けてそれ以外は自由に過ごしていました。土日も一日中自由に時間を使うことができたので、ペルージャから足を伸ばして中部のローマやフィレンツェにヴェネツィア、ペルージャの隣の丘のアッシジなどにも遊びに行きました。入念な準備や下調べをしていたわけではなかったため切符の打刻をせずに怒られたり注文したステーキの量が多すぎたり変な人に絡まれたりもしました。
  また、近場にあるアレッツォという街は見どころがないと判断して行かなかったのですが、後になってペトラルカの生まれた家があることを知ったりと後悔したポイントもいくつかあります。しかし、イタリア現地の風土を見聞することができたのがその後の学部での学びに生きているため、先にイタリアに行けたことは良かったと感じています。
  この一月で十分にイタリア語の習熟や現地での経験を積めたかというとそこまでではなく、秋からの地中海コースの講義では色々な作品や資料の読解にあたって苦労が絶えませんでした。しかし、イタリア語選択でもない私が何とかこのコースに喰らいつけたのはこの一月のスタートダッシュの恩恵が大きかったなと卒業を控えた執筆現在も感じています。